世の中ではさまざまな種類のゴムが使われていますが、その中でもいま注目されているのは「フッ素ゴム」です。
この記事では、フッ素ゴムの長所と短所を解説し、フッ素ゴムが実際に使われている製品の解説をします。
フッ素ゴムとは?
フッ素ゴムとは、有機フッ素化合物を中心として作られたゴムの種類です。
そもそも「ゴム」は、1800年代からゴムの木の樹液から作る「天然ゴム」が使われていました。
しかし第一次世界大戦をきっかけに天然ゴムの入手が難しくなり、石油などを原料とした「合成ゴム」の製造が盛んになりました。
合成ゴムには以下のようにさまざまな種類があります。
- スチレンブタジエンゴム(SBR)
- クロロブレンゴム(CR)
- アクリロニトリルゴム(NBR)
- ブチルゴム(IIR)
- エチレンプロピレンゴム(EPDM)
- ウレタンゴム(U)
- シリコーンゴム(Si)
- クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)
- フッ素ゴム(FKM)
このように様々な種類のゴムがあり、それぞれに特徴があります。
この記事ではフッ素ゴム(FKM)に焦点を当てて解説していきます。
「フッ素ゴム=バイトン」は間違い?
フッ素ゴムといえば「バイトン」が最も有名ですが、実は「フッ素ゴム=バイトン」は正確ではありません。
「バイトン」は、アメリカのデュポン社(E.I.du Pont de Nemours and Company)の販売する商品名であり、同社の作るフッ素ゴムのことを指します。
ただ、バイトンは世界で最初にフッ素ゴムの商標をつけ、日本に輸入されたこともあり「フッ素ゴム=バイトン」という認識が広まっている面もあります。
「スマートフォン=iPhone」と思ってしまうのと似た現象ですね。
フッ素ゴムの長所
フッ素ゴムは他のゴムに比べて、以下の長所があります。
- 耐熱性
- 耐油性
- 耐薬品性
このような長所があり、フッ素ゴムは1969年に打ち上げられたアポロ11号に乗り込んだ宇宙飛行士が履いていたブーツに使われたことが有名です。
耐熱性
一般的にゴムには「熱に弱い」「熱で溶ける」というイメージがありますが、フッ素ゴムは非常に熱に強いことが特徴的です。
その耐熱温度は、なんと約230度となっています。
例えばウレタンゴムの耐熱温度は約100度、天然ゴムは約80度、ニトリルゴムは約120度です。
高温に晒される可能性のある機械部品などには、フッ素ゴムが使われることが大きな理由です。
耐薬品性
一般的なゴムは、様々な薬品に触れると化学変化を起こし、変質しやすいです。
フッ素ゴムは一般的なゴムよりも様々な薬品に対する耐性を持ちます。
また、フッ素ゴムの中でもグレードの高い物であれば、ケトン、エステル、アミン系の薬品に触れても変質しないため、そのような薬品に晒される可能性のあるパーツに使用されます。
汚染性が低い
一般的なゴムは老化防止剤などを使用することで耐熱性を高めますが、それにより抽出物が発生しがちです。
抽出物により機械部品を汚染してしまうことがあり、問題とされていました。
フッ素ゴムは老化防止剤を必要としないため、抽出物が比較的少なく、余計な汚染物が発生しません。
周辺の機械や機材、環境を汚染せずに使用し続けられることが、フッ素ゴムのメリットです。
フッ素ゴムの短所
フッ素ゴムはここまで紹介したように多くのメリットがありますが、デメリットもあります。
ゴムの特徴を正しく理解し、適切な使い方をしましょう。
耐寒性は高くない
フッ素ゴムは耐熱性や耐火性が高い一方、「寒さ」には弱い面があります。
低温での使用が想定される場面では、耐寒性グレードの選定などをし、用途に合わせたゴムを使う必要があります。
強アルカリへの耐性が弱い
フッ素ゴムは様々な薬品への耐性がありますが、唯一、強アルカリ性への耐性は弱いです。
強アルカリ性薬品との接触がある場面では、フッ素ゴムの利用は向いていません。
価格が高い
フッ素ゴムは、一般的なゴムよりも高い強度を誇るため、その分価格が高くなります。
また、比重も他のゴムよりも大きく、加工コストも高いです。
例えば、1kg 10,000円程度、高価なフッ素ゴムでは1kg 20,000円程度となることもありますが、利用目的などに応じて見積もりをとり、最適な価格で提案してもらうことができます。
フッ素ゴムの用途
フッ素ゴムは、日常の様々な場面で使われています。以下では
- 自動車製品での利用
- そのほかでの利用
に大別して、フッ素ゴムの用途を紹介していきます。
フッ素ゴムの自動車製品での用途
- 燃料ホース
- ターボチャージャーホース
- オイルシール
- ガスケット
- ダイヤフラム
- クランクシャフトシール
- O2センサーブッシュ
自動車では、このように様々な部品にフッ素ゴムが使われています。
複数の種類の「ホース」で使われており、耐薬品性、耐熱性、また密閉性の高さが活かされています。
また、自動車自体の振動、ホース内を液体や気体が通過する際の振動にも耐える必要があり、フッ素ゴムのタフさが活かされています。
フッ素ゴムのその他の用途
- 半導体製造装置
- 化学プラント
- 石油掘削
- エレクトロニクス
- 航空・宇宙
- 産業機械
- 食品・医療
- 住宅
- ウェアラブル
- 自動車の内装
このように様々な場面でフッ素ゴムは使われています。
半導体製造装置や化学プラントでは、様々な化学薬品にさらされるため、薬品によって変質するゴムは利用できず、フッ素ゴムが活躍しています。
また、深海や地中不覚で行われる石油掘削作業では、高い耐圧性も求められます。この分野でもフッ素ゴムは利用されています。
また、人体に触れる食品・医療分野でもフッ素ゴムは使われています。人体に触れる可能性がある場所は頻繁に消毒殺菌が行われており、消毒にはジア(次亜塩素酸ナトリウム)が使用されますが、フッ素ゴムはジア耐性に優れています。
住宅では、トイレや排水管などの水回りのシール材として使われています。住宅内でも、消毒殺菌への耐性がある点が大きなポイントです。
また、今まではあまり使われていなかった「ウェアラブルデバイス」分野でもフッ素ゴムが使われ始めています。フッ素ゴム特有の重量感や重厚感が、高級感を演出します。
フッ素ゴムは、調合することで様々なカラーを発現されることが可能であり、スマートウォッチのカラフルなベルトなどに使われています。
また、新しく注目され始めた長所として「低着香性」もあります。におい移りが非常に少ないという性質を利用し、自動車のハンドル部分に使われるなど、新たな動きが起きています。
さらにフッ素ゴムの「抗菌・防カビ材」などを配合することで、人が普段触れる部分でも積極的に使われ始めています。
従来は「ゴム性=安物」というイメージがありましたが、フッ素ゴムの活用により、重厚感があり、触り心地のよいゴム製品として、様々な製品に使われ始めています。
まとめ:実は身近でたくさん使われているフッ素ゴム!
自動車は様々な部品が集まってできていることは知っていましたが、これほど多くのパーツにフッ素ゴムが使われているとは知りませんでした。
それ以前に「ゴム」にこれほど多くの種類があり、それぞれの特徴を活かしていろんな場面で工夫して使われていることも、意識しないと全くわかりませんね。
フッ素ゴムは、これまでは内部部品や製造機械での利用が多かったようですが、ウェアラブルデバイスや自動車の内装などいろんな場面で使われ始めているようです。