9年前の3月、僕が初めての一人暮らしをした街。それが埼玉県戸田市だった。
高知県の専門学校を卒業し、東京の会社に就職し、「憧れの東京生活だ!」と思って会社から割り当てられた部屋は、埼玉県だった。
赤羽駅から埼京線で北に4駅。
会社のある新橋までの行きも帰りも、痴漢に疑われないように気をつけないといけないほどの満員電車。
天気のいい朝に荒川を渡るとき、富士山が見えるのが嬉しかった。
上京した僕は、そもそも会社員で落ち着くつもりは全くなかった。
東京の方がチャンスが多い気がして、東京に出てくるために、就職を利用しただけだった。
当時の口癖は「ビッグになる!」だったけど、一向にその気配はないまま、季節だけが流れた。
戸田駅の、自宅までの帰り道にあるラーメン屋。
古くて、寂れてて、見た目は個人経営だけど実はチェーン店のその店で、週に一回は「定番ラーメン」を食べた。
「定番ラーメン」は、ネギチャーシューラーメンの別名。
会社が終わり、mixiで見つけた自己啓発セミナーに参加し、23時に戸田駅に戻ってラーメンを食べる。
ラーメンを食べながら「このままでいいのか?このままでいいのか?」を自問し続ける毎日。
「いつまでこの生活を続ける気だ?いつまで会社員でいるつもりだ?」
「ビッグになる」ために東京にでてきたのに、実際は会社員をしながら、埼玉のラーメン屋にいる。
具体的に「ビッグになる」がなにかも、どんな選択肢があるかもわからないけど、このままではビッグにはなれないのだけは明らかだった。
そう思いながらも、スープまで飲み干したら「とりあえず、帰ってお風呂に入ろうかな、、、」と、一日が終わってしまう。
また一週間もすれば、同じラーメン屋で「このままでいいのか、、?」を自問する日々。
会社員でいる間、少しずつ自分の中の「野心」が目減りしていることには、気づいていた。
会社員になって8カ月。
21歳だった僕は、右も左もわからないまま、会社を辞めた。会社の借り上げ物件だった戸田駅の部屋も引っ越すことになった。
全ての荷物を詰めたスーツケースを引っ張ってラーメン屋の前を歩いたとき、少しだけ店内を見た。
会社員を辞めて、迷って、もがいている期間の方が多かった。
まだまだ当時思っていた「ビッグ」にはなれてないけど。
少なくとも、あの戸田駅のラーメン屋のときよりは、
自分と、自分の人生を好きでいられてる。