[公開日]2017/07/15
[更新日]2019/08/20

戸田駅のラーメン屋を、僕はいつまでも忘れない。

9年前の3月、僕が初めての一人暮らしをした街。それが埼玉県戸田市だった。

高知県の専門学校を卒業し、東京の会社に就職し、「憧れの東京生活だ!」と思って会社から割り当てられた部屋は、埼玉県だった。

赤羽駅から埼京線で北に4駅。

会社のある新橋までの行きも帰りも、痴漢に疑われないように気をつけないといけないほどの満員電車。

天気のいい朝に荒川を渡るとき、富士山が見えるのが嬉しかった。

 

上京した僕は、そもそも会社員で落ち着くつもりは全くなかった。

東京の方がチャンスが多い気がして、東京に出てくるために、就職を利用しただけだった。

当時の口癖は「ビッグになる!」だったけど、一向にその気配はないまま、季節だけが流れた。

 

戸田駅の、自宅までの帰り道にあるラーメン屋。

古くて、寂れてて、見た目は個人経営だけど実はチェーン店のその店で、週に一回は「定番ラーメン」を食べた。

「定番ラーメン」は、ネギチャーシューラーメンの別名。

 

会社が終わり、mixiで見つけた自己啓発セミナーに参加し、23時に戸田駅に戻ってラーメンを食べる。

ラーメンを食べながら「このままでいいのか?このままでいいのか?」を自問し続ける毎日。

「いつまでこの生活を続ける気だ?いつまで会社員でいるつもりだ?」

 

「ビッグになる」ために東京にでてきたのに、実際は会社員をしながら、埼玉のラーメン屋にいる。

具体的に「ビッグになる」がなにかも、どんな選択肢があるかもわからないけど、このままではビッグにはなれないのだけは明らかだった。

 

そう思いながらも、スープまで飲み干したら「とりあえず、帰ってお風呂に入ろうかな、、、」と、一日が終わってしまう。

また一週間もすれば、同じラーメン屋で「このままでいいのか、、?」を自問する日々。

会社員でいる間、少しずつ自分の中の「野心」が目減りしていることには、気づいていた。

 

会社員になって8カ月。

21歳だった僕は、右も左もわからないまま、会社を辞めた。会社の借り上げ物件だった戸田駅の部屋も引っ越すことになった。

全ての荷物を詰めたスーツケースを引っ張ってラーメン屋の前を歩いたとき、少しだけ店内を見た。

 

会社員を辞めて、迷って、もがいている期間の方が多かった。

まだまだ当時思っていた「ビッグ」にはなれてないけど。

 

少なくとも、あの戸田駅のラーメン屋のときよりは、

自分と、自分の人生を好きでいられてる。